MIKIMOTO独自の世界観を創出する“日本の職人技”。
2次元で描かれたデザインを、“3次元の立体世界”へと表現する“細工”の技術。
“美しい”を立体化する
デザイナーの描いたデザイン画をもとに、金やプラチナなどの貴金属でジュエリーの形を作り出していくのが細工という仕事です。立体の骨格を作っていく作業ですので、細工の出来栄えによって“善し悪し”が決まるといっても過言ではありません。ジュエリーを形づくる“細工”という仕事は、それほど重要な制作工程となります。
デザインは平面に描かれますが、そのデザインに立体感を出していくのはクラフトマンである私たちにある程度 委ねられています。自分が制作したジュエリーを、多くの方に“美しい”と感じてもらえることは、クラフトマンとしての醍醐味だと思います。
立体感をどう表現するかに「技術力」と「個性」が表れる
例えばですが“花”の根本、つまり花びらが重なっている部分は、実際の植物にはほとんど厚みはありませんが、金属には厚みがあるために細工で薄く表現したり、また、そのように“見せる”工夫をしていきます。葉を作るときには先端をひねってみたり、持ち上げてみたり、細い地金を挟んで曲げると唐草のようになり、少し厚めの地金で作ればゆるいカーブに見えてきます。立体的に見せる手法は挙げたらキリがありませんが、平面で描かれているデザインを立体的に造形していくのが“細工の技術”です。
心掛けていることは、何と言っても“装着感”です。ネックレスは鎖骨に当たると着け心地が悪く、ブローチは重いと洋服がたるみます。ジュエリーは肌に触れることが多いので、体にフィットするよう裏を丁寧に作り、重くならないよう余分な地金を出来るだけ少なくします。手に持ったときの“柔らかさ“は、とても重要です。
ジュエリーに独自の世界観を表現できるのは、高度な技術と感性があればこそだと思います。機能を損なわずにジュエリーとしての“優美さ”を表現していくことは、そこが技術力であり、クラフトマンの個性でもあるのです。
“美しい”と感じた理由を探して、感性を磨いていく
細工に必要な資質は“手先の器用さ”と“感性の豊かさ”だと思います。技術的なことは、少し器用な人ならば、訓練を重ねていけば徐々に上達していきます。
しかし、感性は理屈ではありません。
私は何かを目にして“美しい”と感じたときに、“なぜそのように感じた”のか、その理由を探すことで“感性”を磨いてきました。美しいものを見ることはもちろん大事ですが、美しいと感じたらその理由を探すこと、そういった視点を持つことはとても大切です。
感性を磨いていくと、世の中には美しいものがたくさん溢れていることに気づきます。誰もが美しいと感じるものだけでなく、自分の目で美しさを発見して、美しさの奥の奥まで分け入ってみることが大切だと思います。
30代の頃、パリのアトリエで6か月という長い時間を過ごしました。パリに滞在していると、美術館でしか見られないようなものが町の至るところに点在しているので、あらゆるものが目に入ってきます。初めのうちはそのどれもが素晴らしく思えるのですが、目が慣れてくると、「良いもの」と「そうでないもの」とが分かるようになってきます。そのような感覚は、“ものづくり”にとても大切な感性だと思います。
もちろん技術がなければイメージ通りの商品は作れませんが、感性がなければ“良いもの”や“美しいもの”を生み出すことは出来ません。パリのアトリエでは感性重視の作品に多く触れてきましたが、そこに繊細さを加えることで、更に良い商品が作り出せると確信しました。
生命を持ったジュエリーを
私がお世話になったパリのアトリエで感じた“ジュエリーデザイン”の特徴は、自然なもの、植物や虫といった“命”あるものをモチーフとしたデザインが多かったように思います。ジュエリーは貴金属を使用するので、どうしても“無機質”になりがちですが、それらには生命やそれぞれの物語が感じられ、見ていて“ドラマチックな作品”が多いと感じました。パリで制作されていた商品の中には、技術的には決してきれいとは言えないものもありましたが、全体的な印象としては、大胆に肉付けされた“物語”のある魅力的な作品が多く、私もそういった商品作りを心掛けたいと思っています。